東西南北七並べ

すき焼き

エヴァンゲリオン履修ガイド

 

「時に、西暦2015年」
新劇場版「ヱヴァ」、TV版・旧劇場版からなる「エヴァ」、そして漫画版「貞本エヴァ」。
大きく3つの体系からなる「エヴァンゲリオン」は、それを取り巻くように存在する様々な関連作品や文献と相互に影響しあう、さながら星団のような様相です。

詳細な考察は各自に任せるとしてあふれるコンテンツをどのように追っていけばよいのかを、所感や概要などにも触れながらネタバレの無いように俯瞰していきます。基本的には上から順番に履修してもらえばいいんでないでしょうか。気が向いたら追記していくつもりです。


●Level1:
キャラクターや世界観をざっくりつかむための入門。
「とりあえず新劇は見た」と言えるレベル。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序/破/Q
原理主義者の言い分もわかるもの、入り口のハードルを下げる意味でもまずは新劇場版三作からエントリーするのが妥当だろう。現時点で最新の作品であり、各種配信も充実。

・「:序」

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2007年9月1日公開。
『我々は再び、何を作ろうとしているのか?
(中略)
エヴァ」はくり返しの物語です。
主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。
わずかでも前に進もうとする、意思の話です。
曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。
同じ物語からまた違うカタチへ変化していく4つの作品を、楽しんでいただければ幸いです。
(後略)』
(出典:「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」パンフレット)
庵野秀明氏が述べているように、立ち返るスタート地点として始まった「:序」はストーリーラインこそTV版を踏襲しているが、その細部には「エヴァ」との差異がちらつく。「ヱヴァ」の世界観に対する大きな謎かけのキーが明示された序章でもあり、それらが否応なく考察の俎上に載せられていく様こそまさしく「エヴァンゲリオン」である。


・「:破」

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2009年6月27日公開。
庵野秀明氏の「ファンサービス」に加え、「エヴァを破壊した男」鶴巻和哉氏の作風が色濃く反映されたことでシリーズでも異例のポジティブな作品として仕上がっている。冒頭から予定調和を破壊しながら邁進するマリを皮切りに、それまでの在り方を大きく変えて行く面々。それによって物語自体も「外典」として大きなうねりを見せ、破壊が破壊を呼びこんでいく。考察のキーをこれでもかとばかりに散りばめつつも、セカイ系の源流としての矜持を見せつける強烈な幕引き。そしてすべてを急転直下に叩き落す予告。まさに計算しつくされたエンターテイメントである。そのあまりにも前向きな作風は、今を生きる庵野秀明氏にとってこれは「エヴァ」ではなく「ヱヴァ」だ、というメッセージであるかのように思えた。
だがしかし、これはあくまでも「エヴァンゲリオン」なのではないか。
その答え合わせには、3年の時を要した。


・「:Q」

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2012年11月17日公開。
全てを置き去りにして「急加速」する物語。
あらゆる犠牲を払う人々が交差し「胎動」する終局。
遍く伏線を引きずり出しては振り回す「活性化」していく考察。
"Quickening"を冠する3作目は、非の打ちどころもない「エヴァンゲリオン」であった。
激動の熱と息苦しいまでの湿り気を帯びた旧劇場版を彷彿とさせながらも、明確な差異として立ち現れた「:Q」は、極限まで切り詰められた乾いた世界に他ならない。時と同じく可逆性のない世界は碇シンジを、そして我々を置き去りにして進む。それは、どうしようもない現実そのものでもある。かつて旧劇場版において現実と虚構を向かいあわせた庵野秀明氏は、ROEから14年経った今、虚構の中で現実と戦う道を選んだ。
そのために「:序」「:破」で積み上げてきた世界を一変させるその手法は、まさしく自分の願いを叶えるためにあらゆる犠牲を払っている男の姿と重なっていく。そして核心を伏せるための斬新なアプローチによって具現化した物語は、ほとんど奇跡的なバランスの上で成り立っている。ゆえにこの作品は受動的な鑑賞者にとってはよくわからない目を背けたくなる存在であり、未知を喜び、意図を掴もうとする能動的な協奏者にとっては至上の世界となるのだ。

 


◆until you come to me.

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2014年のアニメーター見本市にて公開されたショートフィルム。
「:Q」および「シン」の補完でありながら、「ヱヴァ」と「エヴァ」をつなぐ仮説が明示的に補強されるという意味でも履修必須作品。セリフも説明も一切ない、断片的な描写と意図的に設けられた空白。これまで積み重ねてきた断片を、断片のまま繋げて見せるその表現こそが「エヴァンゲリオン」であり、「庵野秀明」の真骨頂とも言える。

 

◆シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT 1(冒頭10分40秒00コマ) 0706版
https://axisy.hatenablog.com/entry/2019/07/07/134651

 

●Level2:
エヴァンゲリオン」の基礎教養というべき三部作をクリア。
一旦は「エヴァを見た」と言えるレベルだろう。

新世紀エヴァンゲリオン(TV/ビデオフォーマット版)

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原点にして頂点。
謎が謎を呼ぶ展開、緻密な内面描写と人物造形、斬新な表現手法の数々など圧倒的なコンテンツパワーにより95年10月4日の初放送以来、最前線を走り続ける傑作。一生話し続けることになるため所感は割愛。
履修の上での注意点としては第弐拾壱話から第弐拾四話まではビデオフォーマット版が存在すること。OA版よりもかなり描写が追加されており、基本的には両方を見比べるとよいだろう。配信等を利用して視聴する場合は注意が必要。
ネルフ、誕生」、「せめて、人間らしく」の2話は考察における重要情報が追加されており、「涙」、「最後のシ者」の2話はそれぞれのキーマンに対する表現が追加されることで印象が大きくブラッシュアップされている。また劇場版として制作された第25話、第26話のビデオフォーマット予告も熱い。後述の旧劇場版も含め、BDBOXが一番手っ取り早くかつ網羅的。


新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に

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夏エヴァ、EOEとも呼称される、旧劇場版第2作目である。
終劇に向かう最終局面を内面から描いたTV版第弐拾伍話、弐拾伍話に対し、外面からのアプローチも含めて描いたとされる第25話、第26話を統合した作品であり、旧劇としての話を追いかけたいならこれを見ておけばOK。第25話終了後に流れるスタッフロール(THANATOS)、強烈なアニメーションと脚本、全てを飲み込むような鑑賞後の余韻など構成要素の全てが極限まで突き詰められており、ほとんど電子ドラッグに近い。使命、矜持、愛、そして理不尽を渾然一体となった『夢は現実の終わり』であり、『現実は夢の終わり』でもある。
そして、再開と決別の中で、自分の言葉を見つけだすこの『シャシン』こそが、「エヴァンゲリオン」である。


新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生

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春エヴァとも呼称される、旧劇場版第1作目である。
TV版の総集編を弦楽四重奏と絡めて描くDEATH編、完全新作である第25話「Air」の前半部分までを描くREBIRTH編からなる2部構成。途中までであるが故のエンドロール突入演出は神がかっており、仰ぎ見る空と魂のルフランのマリアージュはあまりにも完成された美しさである。


新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH (TRUE)2 / Air / まごころを、君に(REVIVAL OF EVANGELION)

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後述する「シト新生」のDEATH編を再々修正した「DEATH (TRUE)2」と「Air/まごころを、君に」からなる。
当時制作が間に合わず分割公開されたエヴァンゲリオン旧劇場版を統合した本来の姿。
途中に挿入されるインターミッションの何とも言えない緊張感が独特の風味で良い。


新世紀エヴァンゲリオン(漫画)

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貞本義行氏による漫画作品。
誤解されやすいがコミカライズではなく、TV版放映よりも早く連載開始している。
使途の数が異なる、カヲル、ゲンドウの描写が濃いなど設定やキャラクター造詣がTV版と異なるため、ストーリーも一部異なっており、貞本氏による解釈の元で生まれた「もうひとつのエヴァ」として外典的な立ち位置に収まるかと思われた。
が、最終14巻の書下ろしエピソードである「夏色のエデン」にてしっちゃかめっちゃかな状況となっているため言うまでもなく必読である。

 

●Level3:
エヴァンゲリオン」を考察していくための設定資料としての参考文献群。
更に理解を深めていきたいという人向け。

◆パンフレット・ブックレット各種
◆全記録全集(序・破)
◆絵コンテ各種

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https://eva-fan.com/blog-entry-3090.html

全ての考察は一次情報から、ということでまず主要な文献から。
しれっととんでもないことが書いてあったりする。
初見で楽しんだあとも理解が深まってから読み返すと新たな発見があったりと、作品の深みを支える膨大な情報の洪水は「エヴァンゲリオン」ならでは。唐突に明かされたEvangelion Mark.04の衝撃は今でも忘れられない。

 


◆企画書

 

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初期段階でのキャラ設定からタイトル案、概要まで様々な情報が詰まった企画書。
一部要素が新劇に採用されるなど、資料価値は高い。「アルカ、約束の地」からの「たったひとつの、冴えたやり方」はタイトルだけで飯が食える。


◆スキゾ・エヴァンゲリオン/パラノ・エヴァンゲリオン

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1997年発行。
庵野秀明氏へのロングインタビューと、スタッフによる「庵野秀明欠席裁判」が主なコンテンツ。当時の製作状況や、庵野秀明氏をはじめとしたスタッフ陣の思想や人となりを知るうえで非常に重要な資料の一つ。いわゆる「エヴァ評論」の一次資料でもある。

 

新世紀エヴァンゲリオン2

鋼鉄のガールフレンド・2nd
関連作品としてゲームも数多く発売されているが、情報として重要なのはこの3作というのが個人的な印象。

・「エヴァ2

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マルチED、マルチプレイアブルで非常に自由度の高い作品。
冬月に女装させられるシンジ、壁を殴り続けるレイなどシュールな要素も多く、シンジとゲンドウで釣りに行くという人類補完計画阻止のウルトラCが判明する作品でもある。参号機&トウジや4号機&カヲルを仲間にできるなどIf展開も熱いものが多いほか、
初号機F型装備やJA改といったオリジナル要素に加え第一始祖民族やコア関連など明らかになる設定も多く、履修推奨作品。

・「鋼鉄」「鋼鉄2nd」

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霧島マナ、ムサシ・リー・ストラスバーグ、浅利ケイタといったオリキャラ雷電震電という2体の戦略自衛隊によるオリジナルロボット(ランドクルーザー)が履修目的。マナをとりあえず押さえておけば大丈夫だろうと思っていた矢先に「:Q」や「AVANT1」で過去作からのオマージュが弾着している今、ランドクルーザーにも一縷の望みがある…?
2ndはTV版最終話に登場したいわゆる学園エヴァの世界観であり、通称リナレイが登場する。ファンサービス作品のため、キャラ描写の参考に。

 


EVANGELION another impact

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「Until you come to me」と同じくアニメーター見本市において公開されたショートフィルム。
原作は庵野秀明氏であり、エヴァ無号機の起動シークエンスとその顛末が描かれる。
題名通りパラレルワールドもしくは独自の世界軸での描写と思われるが、詳細は不明。


◆それをなすもの

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TV版のメカニックデザインなどを担当した山下いくと氏・美術設定のきお誠児氏によるムック本。
初号機や使徒などのデザインラフが収録されているほか、「:Q」の第13号機のモデルになったエヴァフォウチュンが登場する「彼方の待ち人」も掲載されている。旧劇のシナリオ案として検討された小説であるが、デザイン案などが部分的に新劇に転用されている。これをもとに執筆されたのが「エヴァンゲリオンANIMA」。


エヴァンゲリオンANIMA

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陰山琢磨氏、山下いくと氏による公式小説。
人類補完計画が発動しなかった世界の3年後を舞台に描かれる。「エヴァ」とは味わいの異なるハードSFであり、読み応え十分。スーパーエヴァンゲリオンをはじめとしたメカニックが大量に登場するほか、トウジやケンスケが最も活躍している作品でもある。


◆その他関連作品

 

まずは◎の3作品が優先。

ふしぎの海のナディア」は完全に履修推奨作品であるが、島編の辛さもありピンポイントで見るという選択肢もあり。

◆の4作品は庵野秀明氏が大きな影響を受けた作品群のため参考までに。

 

王立宇宙軍オネアミスの翼
トップをねらえ!

トップをねらえ!2
ふしぎの海のナディア
風の谷のナウシカ
ラブ&ポップ
式日
キューティーハニー
巨神兵東京に現る
シン・ゴジラ

ウルトラマン
宇宙戦艦ヤマト
デビルマン
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

 

あとは「終局の続き」のようなサントラ/楽曲類や「RE-TAKE」のようなエヴァを語るうえである意味外せない二次創作界隈の話あたりが必要かと思いますので、気が向いたら書きます。